台風で瓦が飛ぶのは「軒先」から|防災瓦の性能を活かす「軒先7釘」とは?
- 屋根リフォームの基礎知識
皆さんこんにちは。高知市で70年以上、屋根一筋で地域の皆さまの住まいを守ってきた村山瓦です。
高知は全国でも台風の通り道になりやすい地域です。台風シーズンが終わったこの時期、「今年は何とか無事だったけど、うちの瓦は来年も大丈夫だろうか」とご不安な声をいただくことが増えてきます。
今回は、私たちが台風対策として特に大切にしている「軒先(のきさき)の7釘(ななくぎ)」についてお話しします。強風で瓦が飛ぶとき、どこから飛ぶことが多いのか。なぜ軒先の留め付けがそれほど重要なのか。そして、昔の屋根と今の屋根で何が違うのか。現場で多くの屋根を見てきた立場から、できるだけわかりやすくお伝えします。
強風で瓦が飛ぶのは「軒先」からが多い
台風のあと、屋根点検のご依頼をいただいて現場に伺うと、被害の出方にはある共通点があります。それは、屋根の端(軒先やけらば)から瓦がめくれたり、ズレたりしているケースが非常に多いということです。
軒先とは、屋根の一番下、雨樋が付いている側の先端部分のこと。屋根の流れのいちばん先頭に並ぶ瓦が「軒瓦(のきがわら)」です。屋根全体から見ればほんの一列ですが、この一列が屋根の「玄関口」であり、強風を真っ先に受け止める場所でもあります。
そして怖いのは、軒先の1枚が飛ぶと、そこが突破口になって次の瓦、その次の瓦へと被害が広がっていくことです。1枚の瓦が外れると、留め付けてあったはずの周りの瓦まで連鎖的に飛ばされることがある、と防災研究の分野でも指摘されています。つまり、軒先は屋根全体を守る「最前線」なのです。
なぜ軒先は風に弱いのか?
「瓦は重いから、そう簡単には飛ばないのでは?」と思われる方も多いかもしれません。確かに瓦は1枚あたり2〜3kgほどあります。それでも台風で飛んでしまうのには理由があります。
理由1:瓦の「裏側」から風が入り込む
瓦が飛ぶとき、表面を風が押すだけではありません。瓦と瓦の重なりや、軒先のすき間から風が入り込み、瓦を下から持ち上げようとする力が働きます。表と裏の気圧差によって、瓦がふわりと浮く「揚力」のような状態になるのです。
軒先は屋根の中で唯一、下側(軒裏側)から風が吹き上がってくる位置にあります。風を受けた壁面に沿って上昇した風が、そのまま軒先の瓦の裏側に入り込むため、屋根の中でも特に浮き上がる力を受けやすいのです。
理由2:屋根の「端部」は風の力が集中する
建物に当たった風は、屋根の角や端で流れがはがれ、渦を巻きます。この渦が生じる部分では、屋根面を引きはがそうとする強い負圧(吸い上げる力)が発生します。軒先・けらば(屋根の側面の端)・棟といった「端部」が強風に弱いのはこのためです。
理由3:最初に浮いた1枚が、隣の瓦を守れなくなる
瓦屋根は、1枚1枚が上下左右で重なり合い、お互いを押さえ合うことで成り立っています。先頭の軒瓦が浮けば、その上に重なっている瓦の押さえも外れ、風が入り込む面積が一気に広がります。先頭の1枚が持ちこたえられるかどうかが、屋根全体の運命を左右すると言っても大げさではありません。
【ポイント】
軒先は「下から吹き上げる風」と「端部の吸い上げる力」の両方を受ける、屋根の中でも特に過酷な場所。だからこそ、他の部分以上にしっかりとした留め付けが必要です。
防災瓦の性能を活かすカギが「軒先7釘」
近年の瓦は「防災瓦」と呼ばれるものが主流になっています。防災瓦は、瓦同士が上下でガッチリ噛み合う「ロック(ツメ)構造」を持っており、1枚が浮き上がろうとしても隣の瓦が引っかかって離れにくい仕組みになっています。
ただし、この噛み合わせが効果を発揮するのは、先頭の瓦がしっかり下地に固定されていることが前提です。防災瓦はいわば「手をつないで並んだ列」のようなもの。列の先頭が引っぱられて倒れてしまえば、後ろに続く瓦も一緒に持っていかれてしまいます。
そこで村山瓦では、防災瓦の性能を最大限に発揮させるため、軒先の瓦を7本の釘でしっかりと下地に留め付ける「軒先7釘」を施工の基本としています。
なぜ「7釘(セブンくぎ)」なのか
現在の建築基準法の告示では、軒の瓦は「3本以上の釘等」で下地に留めることが定められています。これは最低限守るべき基準です。
高知のように台風の直撃を受けやすく、海からの強風にさらされる地域では、最低基準ギリギリの施工では安心とは言えない、というのが私たちの考えです。軒先は先頭の瓦であり、防災瓦として屋根全体を一体化させる「起点」となる部分。その起点が強風でめくれれば、どれほど性能の高い瓦を使っていても意味がなくなってしまいます。
だからこそ、軒先には法律の基準以上の本数で釘を打ち、「先頭の1枚を絶対に飛ばさない」ことを徹底しています。見えなくなってしまう部分ですが、屋根の寿命と、ご家族やご近所の安全を左右する大切なひと手間だと考えています。
※釘の打ち位置や本数の割り振りは、使用する瓦の形状(J形・F形など)や屋根の条件によって異なります。詳しくは点検・お見積もりの際にご説明いたします。

釘は「抜けにくいもの」を使うことも重要
本数と同じくらい大切なのが、釘の種類です。ただの丸釘では、強風で繰り返し揺さぶられるうちに少しずつ抜けてくることがあります。現在のガイドラインでは、表面にらせん状の加工などが施された抜けにくい釘や、ねじ(ビス)を使うことが求められています。また、長年雨風にさらされても錆びにくい材質であることも重要です。
以前はこの工法で施工されていなかった
実は、ここまでお話ししたような軒先の留め方は、昔から当たり前に行われていたわけではありません。
昔の瓦屋根は「重さ」と「土」で留めていた
かつての瓦屋根は、屋根の下地に葺き土(ふきつち)を敷き、その上に瓦をのせる「土葺き(つちぶき)」が一般的でした。瓦そのものの重さと土の粘りで固定するという考え方で、釘で留めるのは一部だけ、あるいは銅線や鉄線で縛る程度という屋根も多く見られました。
その後、土を使わない「引っ掛け桟瓦葺き」が主流になってからも、長い間「軒先やけらばなど端部の一部だけを銅線・鉄線・釘のいずれかで留めればよい」という基準でした。平部(屋根の中央部分)の瓦は、法律上は留め付けの規定がなかったのです。
大きな台風被害が工法を変えた
流れが大きく変わったのは、2001年(平成13年)に業界団体によって「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」がまとめられてからです。これは、実験データをもとに耐風・耐震性能を確かめた施工方法を定めたもので、この方法で施工された屋根を「ガイドライン工法」と呼びます。
そして2019年(令和元年)の房総半島台風(台風15号)で、千葉県を中心に多くの住宅の屋根瓦が被害を受けたことをきっかけに、国はこのガイドライン工法を建築基準法の告示に位置づけました。2022年(令和4年)1月1日以降に着工する新築・増改築では、ガイドライン工法と同等以上の留め付けが義務となっています。
工法の違いで被害はこれだけ変わる
房総半島台風のあと、国の研究機関が被災地の瓦屋根を調査した結果があります。軒・けらば部分で被害があった割合は、次のとおりでした。
| 施工方法 | 軒・けらばの被害割合 |
|---|---|
| ガイドライン工法 | 約11% |
| 非ガイドライン工法(従来の留め方) | 約43% |
しっかり留め付けた屋根と、従来の方法の屋根とでは、軒・けらばの被害の出方に約4倍もの差がありました。「どれだけ下地にきちんと留めているか」が、強風に耐えられるかどうかを分けるということが、データの上でもはっきり表れています。
【専門知識】法律で決まった瓦の留め方
ここで少し専門的になりますが、2022年から適用されている瓦屋根の留め付け基準(昭和46年建設省告示第109号の改正)を整理しておきます。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2022年1月〜) |
|---|---|---|
| 留め付ける瓦 | 軒・けらばは端から2枚、棟は1枚おき | 軒・けらば・棟・平部のすべての瓦 |
| 軒・けらば | 銅線・鉄線・釘など | 3本以上の釘等(抜けにくい釘またはねじ) |
| 棟 | 銅線・鉄線・釘など | ねじで緊結 |
| 平部 | 規定なし | 瓦の種類と地域の基準風速に応じて釘等で緊結 |
留め付けの強さは一般的に「銅線・鉄線 < 釘 < ねじ」の順とされています。昔の屋根で多かった銅線や鉄線による固定は、年月とともに劣化して切れたり緩んだりしやすく、強風への備えとしては心もとないのが実情です。
既存の住宅は「今すぐ直さないと違法」ではない
誤解されやすいポイントですが、この基準は新築・増改築に適用されるもので、それ以前に建てられた住宅の屋根がただちに違法になるわけではありません(いわゆる「既存不適格」という扱いです)。
ただし、「法律上問題がない」ことと「台風に耐えられる」ことは別の話です。国も、2001年より前に建てられ、その後屋根を改修していない瓦屋根については、耐風性能を一度確認することを呼びかけています。
わが家の軒先は大丈夫?地上からのチェックポイント
屋根に上がるのは大変危険ですので、ご自身での確認は地上や2階の窓から見える範囲にとどめてください。次のような症状があれば、軒先の留め付けが弱っている可能性があります。
- 軒先の瓦の並びが波打っている、一部だけ飛び出して見える
- 軒先の瓦が浮いて、すき間が見える
- 強風のあと、庭や敷地に瓦のかけらが落ちていた
- 雨樋が瓦に押されて歪んでいる、外れかけている
- 軒天井(軒の裏側)にシミや剥がれがある
- 築30年以上で、一度も屋根の葺き替えや大きな修理をしていない
- 2001年より前に建てられ、その後屋根を改修していない
特に、台風が過ぎたあとに「なんとなく屋根の見え方が変わった気がする」という感覚は大切にしてください。小さなズレのうちに手を入れれば、大きな被害や雨漏りを防げることが多くあります。
古い屋根の軒先を強くする方法
「うちは昔の工法みたいだけど、どうしたらいい?」というご相談には、屋根の状態とご予算に合わせて、次のような方法をご提案しています。
1. 軒先・けらば部分の部分補強(葺き直し)
瓦や下地の状態が比較的よい場合は、風の影響を受けやすい軒先やけらばの瓦を一度外し、抜けにくい釘やねじでしっかり留め直す方法があります。屋根全体を工事するよりも費用を抑えながら、弱点を集中的に強化できます。
2. 防災瓦への葺き替え
瓦の劣化が進んでいる、下地の防水シートや木材が傷んでいる、土葺きで屋根が重い、といった場合には、防災瓦への葺き替えがおすすめです。葺き替えでは、現在のガイドライン工法に沿って全ての瓦を留め付けたうえで、村山瓦では軒先に7釘を施工し、台風に強い屋根に仕上げます。土を使わない工法にすることで屋根が軽くなり、地震への備えにもつながります。
3. 定期点検で「先手」を打つ
工事が必要かどうかの判断は、まず点検からです。屋根の傷みは地上からでは見えにくく、実際に上がってみると想像以上に進んでいることもあります。台風シーズン前の点検をひとつの習慣にしていただくと安心です。
【台風で瓦が飛んでしまったら】
台風などの風災による屋根の被害は、ご加入の火災保険で補償の対象になる場合があります(経年劣化による傷みは対象外となるのが一般的です)。被害を見つけたら、まずは状況を写真に残し、早めにご相談ください。
よくあるご質問
Q. 軒先7釘は、新築や葺き替えのときにしかできませんか?
A. 軒先の瓦を一度外して留め直す部分的な工事でも対応できる場合があります。ただし、下地の木材が傷んでいると釘がしっかり効かないため、点検で下地の状態を確認したうえで最適な方法をご提案します。
Q. 釘を多く打つと、瓦が割れたり雨漏りしたりしませんか?
A. 瓦には、もともと釘を打つための穴や位置が設けられています。瓦の形状と下地に合った釘を、決められた位置に適切に施工すれば、瓦を傷めたり雨漏りの原因になったりすることはありません。だからこそ、知識と経験のある職人による施工が大切です。
Q. 防災瓦なら、軒先の釘は少なくても大丈夫ですか?
A. 防災瓦は瓦同士が噛み合うことで強さを発揮しますが、その起点となるのが軒先の瓦です。先頭がしっかり固定されていなければ、噛み合わせの効果も十分に発揮されません。防災瓦だからこそ、軒先の留め付けを手厚くすることが重要だと考えています。
Q. 点検だけでもお願いできますか?
A. もちろんです。屋根の状態を確認し、すぐに工事が必要かどうかも含めて正直にお伝えします。無理に工事をおすすめすることはありませんので、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 強風で瓦が飛ぶときは、屋根の先頭である軒先から被害が始まることが多い
- 軒先は下から吹き上げる風と、端部の吸い上げる力を同時に受ける過酷な場所
- 防災瓦の性能を活かすには、先頭の瓦をしっかり留める「軒先7釘」が重要
- 以前の瓦屋根は、土や重さ、銅線などで留めることが多く、現在の工法とは大きく異なる
- 2022年から新築時の瓦の留め付けが強化されたが、それ以前の屋根は一度点検するのが安心
屋根は、普段なかなか目にすることのない場所です。だからこそ、見えない部分にどれだけ手間をかけるかで、台風が来たときの安心感が大きく変わります。
村山瓦は、高知の気候と屋根を知り尽くした地元の屋根工事専門店として、代表の村山が最初のご相談から点検・施工・アフターフォローまで一貫して対応いたします。「うちの軒先は大丈夫かな?」と少しでも気になった方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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